自動運転車の事故を補償する「被害者救済費用等補償特約」とそのメリットは?



「被害者救済費用等補償特約(被害者救済費用特約)」は、「自動運転車(自動走行システム)」に関する特約で、システム不具合や不正アクセスなどを原因とし、ドライバー自身に責任がない、人身事故や物損事故で発生した損害を補償する特約です。



近年、日本国内でも「テスラ・モデルS」や「日産・セレナ」など自動運転車が販売され始めていますが、自動運転車は人間が直接操作を行わず、運転の一部、または全部をシステムが行うため、ドライバーに非がないのにも関わらず、事故が発生することがあります。

従来の自動車保険では、契約者に賠償責任がなければ、保険会社も保険金を支払ってくれません。しかし、この特約では自動運転車であれば、そのようなケースでも保険金を支払ってくれるため、迅速に被害者を救済できるとともに、保険契約者の自己負担も大きく減らすことができます。

東京海上日動が提供を開始して以来、この特約を提供する保険会社が徐々に増えてきていますが、基本的にこの特約は、自動運転車を契約者とする自動車保険に加入することで自動的にセットされ、追加費用も必要としていません。



ここでは、自動運転車による損害を補償する、「被害者救済費用等補償特約」の補償例や補償範囲、メリットなどについて解説します。


「被害者救済費用等補償特約」で補償されるケース・されないケース

この特約はまだ発売されたばかりで、また自動運転車もそれほど普及していないこともあり、実際の事例などはまだほとんどないため、厳密にこの場合は該当するとはいいがたいのですが、以下のようなケースが想定されます。(いずれも自動運転車での事故を想定)


補償されるケース

  • 自動運転車のセンサーの故障によりブレーキがかからず、他の車に衝突した
  • システムの不具合により赤信号を正しく認識せず、横断歩道を歩いている人を轢いた
  • スーパーに車を駐車して買い物をしている最中に、システムがハッキングされ、横にいた車に衝突させられた



また、自動運転車であっても、ブレーキはドライバーが制御しているような車で、ブレーキを踏むのが遅れて事故を起こしたようなケースは、この特約の対象とはならない可能性があります。(ドライバーに過失があると判断される場合は、通常の対人賠償・対物賠償などで補償可能)


自動運転車による事故の原因と賠償責任

従来の自動車事故の場合、運転者がはっきりしているため、交通事故が起きても、過失責任のある加害者が賠償責任を負い、被害者が損害を補償してもらうというシンプルな形でした。(もちろん、過失割合による減額等はあり)

しかし、自動運転車の場合、必ずしもドライバーに過失責任があるとは限りません。自動運転車による事故の原因としては以下のようなものが想定されますが、それぞれ加害者が異なることになります。


原因 加害者
車自体の不具合 自動車メーカー
システムの不具合 ソフトウェアメーカー
ハッキング(不正アクセス) ハッカー
(不正アクセスを行った人)



原因が複数にわたる場合は、加害者も複数に渡るようなことも考えられます。

また、自動運転車自体は正常に動作していたとしても、カーブでセンターラインの白線が消えかかっていたために正常に認識できず、事故が発生してしまったような場合には、道路を管理している自治体がメンテナンスを怠ったと判断され、加害者とされるような可能性もありえるでしょう。


「被害者救済費用等補償特約」の補償範囲と対象

被害者救済費用等補償特約で補償される範囲は、以下のようになっています。

  • 自動運転車による事故
  • 車種や自動運転レベル(どこまで自動で行ってくれるかの段階)にはよらない

現時点では、まだ今後どのような形で自動運転車が進化していくのかや、法律上の整備なども十分ではないため、かなり広い範囲での補償ができるような形になっているようです。



また、補償対象は、東京海上の場合「被害者」としています。一方、損保ジャパンでは、「人身事故は対人賠償責任保険の保険金額を限度とし、物損事故は対物賠償責任保険の保険金額を限度とする」と明記されています。

いずれも自分側の被害に関しては、人身傷害や搭乗者傷害で補償されます。


「被害者救済費用等補償特約」のメリット

従来の自動車保険の仕組みのまま、自動運転車で事故を起こした場合、以下のようなデメリットが生じます。


  • 加害者が誰になるのかわかりにくいため、原因が判明するまで時間がかかり、保険金の支払いも遅くなる
  • 賠償義務がないケース(ドライバーが乗っていない状態で誤動作し、事故を起こした場合など)は、保険金が支払われない
  • 保険会社に賠償義務がない場合は、加害者が原因となったメーカー(自動車メーカーや自動運転システムを提供しているソフトウェアメーカーなど)に、損害賠償請求をしなければならない
  • 損害賠償請求をするには、原因がそのメーカーにあることを加害者が証明しなければならい



このような状況は、事故の被害者にとってはもちろん、加害者にとっても非常に大きな負担になります。

しかし、この特約に加入していれば、実際に誰に賠償責任があるかに関わらず、以下をそれぞれ保険会社が行ってくれます。


  • 保険金を事故相手・自分側の両方に先行して支払う
  • 事故原因や過失状況を調査し、それぞれに対し請求処理を行う



このように、被害者への救済を迅速に行い、また保険加入者の負担を大きく減らしてくれるのが、この特約の一番のメリットです。

また、この特約が適用された場合、ドライバー側に過失責任はないとみなされるため、次年度の等級は下がらないのもメリットの一つと言えるでしょう。


特約が適用される条件

この特約が適用されるためには、ドライバーに過失がなく、法的な損害賠償責任がないことが条件になります。

そのためには、事故の原因となる欠陥やハッキングが、自動車メーカーによるリコールや警察の捜査など公的機関による調査によって、客観的な事実として確認できる必要があります。



ただ、その原因がはっきりするまで、通常の自動車事故と比較してもかなり時間がかかる可能性があるため、事故発生当初で責任の所在が不明確なケースでも、保険会社が一旦保険金を支払ってくれます。

そして、原因がはっきりした段階で、加害者であるメーカーなどへの損害賠償請求を行う形になっています。


「車両保険の車両無過失事故に関する特約」の改定

被害者救済費用等補償特約で保険金が支払われた場合、次年度の等級は下がりません。(もちろん、ドライバーに責任があると判断された場合は、等級は下がります)

そのため、この被害者救済費用等補償特約の提供開始に合わせて、各社は「車両保険の車両無過失事故に関する特約(無過失事故の特則)」の内容も改定しています。



車両保険の車両無過失事故に関する特約は、ドライバーや契約者に過失のない衝突・接触事故の場合(停車中の追突、赤信号無視などの「もらい事故」)、次年度の等級を下げない「ノーカウント事故」として扱ってくれるものです。

この特約の範囲をさらに拡大し、システム故障や不正アクセスなどが原因で、家屋やガードレールなどに接触した場合など、車対車の事故以外のケースでも、次年度の等級を下げない措置をとるようになりました。